離婚時における不動産を巡る法律問題
幣所代表弁護士鈴木軌士が2016年1月26日(火)に横浜の不動産オーナーの方々のための「離婚時における不動産を巡る法律問題」と題したセミナーを行いました。
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セミナー名 |
横浜の不動産オーナーの方々のための「離婚時における不動産を巡る法律問題」 |
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セミナーの様子 |
横浜の不動産オーナーの方々のための「離婚時における不動産を巡る法律問題」
平成28年1月26日実施
(主催者)
〒231-0021 横浜市中区日本大通14番地
KN日本大通ビル2階
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
TEL 045-650-2270
FAX 045-650-2271
代表弁護士 鈴 木 軌 士
第1 離婚する際に不動産を巡って問題となること
1 財産分与
財産分与とは?→離婚の際、配偶者の一方から他方へ分与される財産。法的性格は、次の4つが実務上、認められている。
(1)清算的財産分与
夫婦共有財産の清算。最近は、2分の1ずつとされることが多い。
(2) 慰謝料的財産分与
不貞や暴力等の不法行為で基礎づけられない慰謝料を財産分与の中で調整する場合があるが(≒離婚自体についての慰謝料)、離婚がいわば社会現象とまでなっている昨今では、このような「離婚そのものからの」慰謝料を積極的に認める扱いは極めて少なくなってきている。
(3) 未払婚姻費用の清算
婚姻費用の請求は、正式に要求した時点からの分しか、調停や審判では判断されない(婚姻費用請求の形成権的性格)。そのため、過去において、正式に要求する前の婚姻費用(但し、金額については合意されていることが前提)の未払が明らかで、その清算をしないと夫婦間における公平を著しく害するような場合には、このように正式に要求する前の婚姻費用も財産分与の中に含めて清算されることがある。
(4)扶養的財産分与
特に専業主婦の妻が離婚する場合、離婚後、すぐに生活に困窮してしまうことも多い。そこで、離婚後も、一定の間は、例えば就職先を探したり、よりよい職を探せるよう資格等を取得したりするための期間として、夫婦だった間における生活レベルマイナスα程度のレベルの生活を元妻が送ることができるだけの費用を扶助費として渡すことが財産分与の中で決められることがある。ここでの一定期間とは、上記就職先探しや資格取得のための合理的期間と考えられるので、おおよそ6か月~最長1、2年と思われる。
☆不動産に関して問題となる財産分与は、(1)の清算的財産分与が圧倒的に多いものと思われる。
但し、配偶者の一方の潜在的持分(後述する特有財産からの出金が同額なら、2分の1宛が基本)を上回る持分の取得が認められる場合、上回る持分取得の根拠として(2)の慰謝料的財産分与や(3)未払婚姻費用の清算が言われることもある。
さらに、(4)扶養的財産分与の一環として、富裕層の場合には、不動産(の持分)を分与し、離婚後も特に妻が生活の場を失わないように配慮するような解決例もある。
2 慰謝料
実務的には、配偶者に(1)不貞行為(2)暴力その他、の不法行為が認められる場合にのみ認定されるのが原則となり、上記1で触れた離婚自体の慰謝料は、上記財産分与の一環としても認められなくなってきている点は上述。
(1) 不貞行為
配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと。婚姻中は男女問わず、配偶者に対して貞操義務を負っているが、これに違反すること。
例外として婚姻中でも不貞行為とならない場合→夫婦関係が実質的に破たんしている場合。客観的事実としては、別居している場合等。ここでいう別居は、単身赴任のように物理的に離れているだけの場合は通常、含まれない。
なお、慰謝料の額は、婚姻期間、不貞の期間や頻度、子供等家族への影響、不貞相手との間に子が出来たか否か等の客観的事実から決められる。
(2) 暴力その他=夫婦間でなくても一般的に不法行為を構成するような暴力が慰謝料を発生させるのは当然。逆に夫婦間に一般的によくある小突き合い等を慰謝料の発生原因とするのは通常、困難。実務的には、暴行の結果である傷害を証明する診断書等が入手できていないと、傷害結果のみならず暴行の程度を主張・立証することも困難となり、慰謝料を認定してもらえない可能性が高い。→暴力は少なくとも診断書等で暴行による傷害結果等を明らかに!!
慰謝料の額が、暴行や傷害結果の各程度、後遺障害の存否等により決められるのは通常の不法行為の場合と同じ。
なお、暴力の場合は、不貞の場合と異なり、実損があれば、夫婦間であっても、慰謝料以外の損害賠償も認められ得る(例えば治療費・通院費等はもちろん、休業損害や後遺障害逸失利益も認められ得る)。
(3) 不動産との関係
上記1の財産分与ほど直接に関係する訳ではないが、2の慰謝料請求が認められる場合、仮に訴訟で勝訴判決を得ても強制執行等によりこの判決中で認容された請求が履行されないおそれが高く、判決前に予め履行すべき債務者の資産を押さえておかないと、これが散逸してしまうおそれがあるような場合には、訴訟提起前に債務者の資産を仮に差し押さえたりする保全手続の申立てができる。
上記保全申立てにより押さえておくべき債務者の資産が何なのかにより不動産の仮差押、預貯金や給料等の債権の仮差押、その他動産類等の仮差押等が考えられる。
慰謝料の場合、額の算定等の流動的要素が少なくないこと、証拠調べ手続等を通じた事実認定をしないと、そもそも不法行為の有無や本当に慰謝されるべき精神的損害が発生したのか不明瞭であること、等から、本来、上記保全(仮差押)申立てには馴染みにくいものではあるが、例えば興信所の報告書等により不貞の事実が客観的にも裏付けられるような場合には、相場額(おおよそ300万円前後)程度であれば、慰謝料請求権を被保全債権=請求債権として、仮差押え申立てが認められる場合も多い。
この場合、裁判所は債務者にとって最も影響の少ないものから仮差押を認めていくので(謙抑性)、通常は、①不動産②投資している上場株式等の金融資産(給料口座以外の預金口座も含む)③給料が入金される預金口座や事業者の場合の役員報酬等④給与所得者の給料・賞与や事業者の場合の取引金融機関の預金口座等の順番で通常は判断される。
3 婚姻費用
夫婦間で分担すべき、夫婦の生活から発生する費用。いわゆる「生活費」。
夫婦間の同居・協力・扶助の義務に基づき、夫婦の一方は他方に対し、自己と相手の収入等に見合った婚姻費用を分担しなければならない。
この婚姻費用の額は、夫と妻の各収入額(年収が基本)と子供の数及び年齢で算定される算定表(ネット上にもあり)に基づいて算定される。
婚姻中であれば、たとえ別居中でも婚姻費用は発生する。
婚姻費用は、受領する側にとってはまさに「生活費」であることから、現金支給が原則。現物支給は基本的にはあり得ない。
但し、不動産との関係では、例えば、後述のとおり、妻と子供をそのまま従前の住宅に住まわせて夫が単身出て行き別居となった場合に、住宅ローンや家賃を夫が従前どおり支払っていく形で婚姻費用を分担する形式も考えられる。これは見方を変えれば住居の「現物支給」と言えるかもしれない(資産家であれば、ローンや家賃も支払わない本当の住宅の「現物」での支給も考えられる)。
この場合に、夫が支払う住宅ローンや家賃の額を婚姻費用として分担済とできるか、分担済とできる場合に、いくら分担済と算定できるのか、については後述。
第2 財産分与に関して
1 財産分与の対象財産=夫婦共有財産とは?
→婚姻中に、夫婦双方の協力・扶助により築き上げられた財産をいう。
→具体的には、婚姻後築かれた財産のうち、夫婦どちらかの親等から相続・贈与された財産を除いたもの。
→名義が夫婦どちらの名義であるかは基本的には問わない。
→婚姻前から夫または妻が有していた財産は除かれる。
2 夫婦共有財産と夫婦の各特有財産との違いについて
→夫婦いずれかの名義の財産のうち、上記の「夫婦共有財産」に該当しないものが、夫婦特有財産である。
→よくあるのは、婚姻前から各自が有していた財産、婚姻中でも各自の親等から相続・贈与された財産等である。
→上記は最終的には実質的に判断されるので、夫婦いずれの名義であるかは理論上は関係ない。
→但し、名義(形式)と違う所有を主張する者は、名義と実質がずれていること及びその合理的な理由を主張・立証しなければならない。
実務的には、交渉、調停、訴訟・審判いずれの段階においても、名義と異なる主張・立証をしていくことは、認定され易いか否かという点においては、いわば「ハイリスク・ハイリターン」という選択となることの認識は必須である。
3 夫または妻が親から相続した(または贈与された)財産は?
→婚姻前であれば、無条件に特有財産であろう。
→婚姻中は、基本的には上記のとおり特有財産。
→例外があるとすれば、例えば、相続・贈与でも、使途を定めたもの、すなわち、「夫婦の生活費として使ってくれ」「夫婦の負債の返済に充ててくれ」との趣旨で渡されたものがあるとすれば、場合によっては、受領した時点で夫婦共有財産と判断されて、夫または妻が、相手方の親からの相続・贈与金であっても潜在的持分を有すると認定されることも可能性としてはあり得る。
→但し、実務的には、夫婦のうち、親から相続・贈与を受けた者に対する全額の相続・贈与と認定されることの方がごく一般的である。
→cf.夫婦の一方が他方の親の養子になっていた場合
4 夫または妻の一方が夫婦の他方に対して贈与した財産は?
贈与金の出所によって変わってくるものと思われる。
贈与金が特有財産から出た場合→受贈者の特有財産になることが普通。
贈与金が夫婦共有財産から出た場合→引き続き夫婦の共有財産になることが普通。
贈与金が夫婦共有財産から出ているが、受贈者の特有財産になる場合→仮に「離婚する」ことになった場合でも、清算の対象とは「しない」趣旨であれば、受贈者の特有財産になることも。
☆いずれにせよ、婚姻中になした贈与は、(契約なので)婚姻中は夫婦のいずれからも一方的に撤回できる(民法754条)。但し、第三者の権利を害することはできない。特に不動産が対象となったような場合、登記まで移転された結果、第三者に譲渡等された場合には、撤回できなくなる。
5 夫婦が婚姻中にローンを組んで購入した住宅について
(1) ローンの返済原資が夫婦の一方または双方の収入の場合
婚姻前の夫婦財産契約等により、収入の管理を分けて夫婦別々に管理していく旨が合意されてでもいない限り、どちらの収入からいくらが返済原資に回ろうが、基本的には、返済中の支払分相当額は、夫婦共有財産となる。
Cf.夫婦共有財産となる割合は、購入額の中でこの支払分相当額分の割合にて算定される。→返済全期間中の婚姻中返済期間等、期間計算でも近似値にはなるが、必ずしも正確でない。←∵期間と返済額は、前倒返済や滞納した場合等、必ずしも合致しないから。
なお、あくまでも購入額の中での割合で計算し、現在価格中での割合で計算しないのは、値上がり、値下がり等、物件の価値は常に変動するため、負担した返済額との比較割合計算をするためには、現在価値では必ずしも妥当ではない(=場合によっては当事者間での公平を害する)ため。
(2) ローンの返済原資が夫婦の一方または双方の親から相続した(または贈与された)預金だった場合
夫婦の一方または双方の親から相続等した預金は、通常、特有財産となる。
→特有財産からの返済がある場合の計算方法
上記夫婦共有財産の算出と同様、購入価額に対する割合で計算する。
例:購入時5000万円の住宅のうち、特有財産から1000万円を出した場合の計算方法(現在における持分割合を計算)→5000万円分の1000万円=5分の1
→(価額弁償で清算する場合)上記住宅の現在価値が3500万円→3500万円×5分の1=700万円が弁償すべき価額
(3) ローンの返済原資が夫婦の一方から他方に贈与された預金だった場合
受贈金が上記のとおり、特有財産になるか、夫婦共有財産になるかによる。
特有財産になる場合→上記割合計算にて、特有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
夫婦共有財産になる場合→上記割合計算にて、夫婦共有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
(4) ローン返済原資の1部または全部について夫婦間の子といわゆる親子ローンを組んでいた場合
親子ローンのうち、親が負担したローン分のうち、親の所有になっていない分は、通常、親から子に対する贈与分に該当する。
この分は、通常は特有財産になる→上記割合計算にて、特有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
☆親がローン負担しても親の所有となっている部分→名義上も、そもそも夫婦共有財産となってはいない→夫婦間の財産分与清算の対象とはならず。→あくまでも、名義人である親と夫婦の一方または双方の2(または3)者間の共有物分割の清算にすぎない→割合計算の仕方は、上記と同じ(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に割合を乗じて弁償金を算出)。
(5) 購入額の1部がローンで1部は頭金を出した場合
① 頭金を夫婦共有財産から出した場合
夫婦共有財産を返済原資とするローン支払分が夫婦共有財産になるのが通常である点は上述。
頭金も夫婦共有財産から支出なら、結局、全体が夫婦共有財産に。
② 頭金を夫婦の一方の特有財産から出した場合
特有財産から支出した頭金分は、上記と同様に特有財産となる。
割合計算の方法は上記と同様(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に割合を乗じて弁償金を算出)。
③ 頭金を夫婦の一方または双方の親が出した場合
親が出した頭金分については次の場合分けが必要に。
(ⅰ) 親の名義で(持分の)登記が入れられている場合 →親の持分名義部分は、通常は、そもそも夫婦共有財産にはなりえない。→親の名義以外が夫婦共有財産として、親(両親の、しかも夫婦両方の場合もあり得るから、最大で4人か。あるいは祖父母とかもあり得る)と夫婦の一方または両方間の共有物の分割の問題になる点は既述。
(ⅱ) 親の名義で(持分の)登記が入れられてはいない場合
親が出した頭金は、通常は、親が出した方の夫または妻に対する贈与と判断されることが多い。→出してもらった方の夫または妻の特有財産分として処理する場合が実務上は多いだろう。
但し、親が出した分の持分登記を求める場合→共有(持分)登記を入れる形で応じるか、あるいは、登記を入れる代わりに価額弁償して(=代償金を支払って)清算解決する場合が多い。
この場合の清算についても、既述の割合計算によるのが普通(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に割合を乗じて弁償金を算出)。
共有名義でも、一度登記名義を入れると、例えば登録免許税や不動産取得税、固定資産税・都市計画税等の諸税金が余計に課税されることにもなるので、登記名義を入れる前に金銭で清算した方が得策であることが多いだろう。
6 不動産が夫婦共有財産の場合の清算方法
(1) 物件の時価がローン残額を上回る場合
→ほとんどの住宅等ローンは抵当権により担保されているはずなので、物件の本来の価値は時価-清算時のローン残額≧0→この残価が清算すべき夫婦共有財産となる。
☆「清算時」とはいつか?→通常は、財産分与時(に直近した時点)。但し、物件価格を別居時等で固定した場合には、公平上、ローン残額も別居時を基準に計算することもある。
(2) 物件の時価がローン残額を下回る(いわゆるオーバーローンの)場合
→上記同様、物件の本来の価値は時価-清算時のローン残額<0→この残価が清算すべき夫婦共有財産となる。→残価がマイナス→清算すべきは負債→残る住宅ローンの負担を離婚後、夫婦でどう分担すべきか、の問題に。
→財産分与=プラスの財産だけでなく、負債、すなわちマイナス財産の分配も含む。→夫婦間の分与(分担)割合に応じて分担を。プラス財産も2分の1宛なら、マイナス財産も2分の1宛が通常。
☆この場合、マイナスの場合には、物件には資産的価値はないことから、上記残債務の分担の問題はともかく、物件自体は夫婦のうち、どちらが貰ってもよいことにはなる⇔住宅を貰えた側は、ローンの返済をしている間は少なくとも居住利益だけは確保できてはいることになる。→住宅を取得せずにローンだけ分担させられる側には余りにも酷で不公平な結果に。→上記居住利益分は、例えば支払を免れる賃料等から算出は可能→住宅を取得する側には、このような居住利益が存することを前提に清算をするのがベストか→上記居住利益≒残ローン中、住宅を取得する側が負担すべきローン残額、なのであれば、結局、住宅を取得して住み続ける側が、残ローンの全てを以後支払っていく形の清算も、あながち不合理とは言えない。
(3) 夫婦以外の者が共有者の場合
①登記名義上も共有者として持分登記が入れられている場合→既述の親名義が入れられている場合等を参照を。
②登記名義上は持分登記は入れられていない場合→親が出した頭金分等について、共有持分登記を入れることを求めた場合等を参照を。
③登記上の持分割合と実体上の持分割合が異なる場合→主張・立証できるのであれば、実体上の持分割合に直すことも不可能ではない。登記は持分の更正登記等で申請することに。
(4) いわゆる2世帯住居の離婚時における清算方法
①1階と2階でそれぞれ表示登記及び所有権保存登記が分かれている(≒区分所有権)場合→親の所有部分と息子等夫婦所有部分とが登記上も分かれている場合がほとんど→財産分与の対象として問題となるのは、夫婦所有部分のみ。Cf.この場合の親所有部分は、そもそも共有物分割の対象にすらならない。
②登記上は表示登記も所有権保存登記も分かれていない場合
(ⅰ) 土地や建物を物理的に分けられる場合→例えば1階と2階で分離する等、極力、上記①に近づける努力を。
(ⅱ) 土地や建物が物理的に分けられない場合→親も交えた当事者間で金銭での清算(既述の価額弁償=代償分割)ができればそれを。
→この清算ができない場合には、一括して第三者に売却等して、割合に応じて金銭を分配する他ない(換価分割)。
→任意売却が価額等で折り合いが付かず合意できない場合には、共有物として共有登記が入っていれば共有物分割訴訟を提起し、判決で形式競売にする他ないが、競落人が出るか、出るとしても幾らで競落するか等、不安定な要素が非常に多いため、通常は避けようとすることが多い。
③表示登記上は分かれているが、所有権保存登記は分かれていない場合
上記①のケースで、親または息子等夫婦の親子関係において、どちらかが全ての名義をもっている場合ということ。→結局、上記②の(ⅰ)の場合ということに。
7 離婚財産分与を被保全債権として対象不動産に対して不動産仮差押申請をすることの可否
(1) ①仮差押申請は可能 ②その場合の被保全債権は?→財産分与請求権
(2) 仮処分申請まで可能か?①可否→通常不可(通説・判例) ②被保全債権の考え方(=財産分与請求権の法的性質)→物権的請求権として、分与対象財産に及ぶものではなく、あくまでも債権的請求権として、価額に応じた金銭の支払を求めることができるものにすぎない。
第3 慰謝料に関して
1 離婚に際して請求できる慰謝料は?
→既述。
2 慰謝料の支払を確実にするために夫(妻)名義の不動産の仮差押ができるか?
→既述。
(1) 夫婦の共有財産について①名義上→債務者名義部分なら可。 ②実体上→名義変更した上でなら可。
(2) 夫婦の特有財産について①名義上→債務者名義なら可。 ②実体上→名義変更した上でなら可。
3 仮差押以降の具体的手続
(1) 本訴の提起
(2) 強制執行(本差押)
→上記(1)(2)とも、仮差押決定との整合性が認められるよう、請求債権、当事者等を統一しておくことが大事になる。
第4 婚姻費用について
1 離婚までの間に請求できる生活費=婚姻費用
2 婚姻費用の支払を確実にするために、夫(妻)名義の不動産の仮差押ができるか?
→可。
3 別居後、離婚時まで支払い続ける住宅ローンの全部または1部を婚姻費用の支払に充てることはできるか?(cf.養育費の場合)
→可。(cf.養育費の場合→通常は不可)
但し、支払済とされる婚姻費用の額は、上記支払ローン額の全額ではなく、例えば支払う夫の資産形成に将来なり得る部分については、婚姻費用の既払額に算入されない場合がある(例えば、夫の潜在的持分部分のローン負担分について等)。